日帰り諏訪の旅

今回はチャンキー松本さんといぬんこさんを誘って、長野県の諏訪地方に行ってきました。運転免許を取得したばかりのチャンキーさん、私もそうですけど、東京にいると運転機会がないですから、いざというときに不安ですよね。それを払拭するための運転練習も兼ねてます。神社に行って、諏訪湖を見て、そばを食べ、温泉に入って、無事帰ってくると。そういうプランであります。

諏訪といえば、古事記の国譲り神話にも出てくる古い地名です。
天照(アマテラス)大神傘下の「愚連隊」筆頭・武甕槌命(タケミカヅチ)が、シマを仕切っていた大国主(オオクニヌシ)神に向かって「ワレ、ちょっと国をゆずってくれんかのう」と理不尽な要求をします。そこで腕に覚えのある大國主の息子・建御名方命(タケミナカタ)がタイマン勝負を仕掛けます。ところがどっこい、武甕槌命はキラリと光る物騒なものを隠し持っていたんですね。こりゃいかん殺られるぞと、タケミナカタが逃げた先が諏訪だったというわけ。

チャンキーさんたちは旅芸人のように日本のあちこちから呼ばれて仕事をしているのですが、その場所が鳥取だったり佐渡だったりと、いわゆる「裏日本」が多いんです。鳥取県大山町では2ヶ月滞在してアニメをつくったりもしていて、その縁で西荻案内所で大山町の物産販売をしたこともありました。鳥取の隣が出雲のある島根。鳥取にも神話にゆかりのある場所が多いです。大山町に行った時、家の瓦にエビスの顔がはめこんであるのが印象的でした。国譲り神話のもう一つの話に出てくる、事代主命(コトシロヌシ)。諏訪の神、タケミナカタとは兄弟なんですよ。エビス=コトシロヌシですので、今も自然な形で崇敬を集めているんでしょうね。国つ神のいる諏訪と鳥取、どこか似ているところがありそうと思っていた次第。

で、「諏訪に行きましょうよ」とチャンキーさんを誘ってみたら、「おおっ来たな!」と驚いてるわけです。どういうことなのかというと、写真家のMOTOKOさんからつい最近、「諏訪に行って下さい!」とダイレクトメッセージが飛んできたばかりだというんです。
というわけで、諏訪の神様に呼ばれるように、私どもは早朝に西荻を出発しました。

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諏訪は地質的にも「日本のへそ」みたいな場所です。東西をわける中央構造線と南北を分ける糸魚川静岡構造線、日本を代表する2つの地質境界が交差するのがこの諏訪です。そんな場所にタケミナカタが逃げこんだのにはたぶん何か理由があったはず。それについてはあとでちょっと考えるとして、ともかくタケミナカタとされる集団が、別の集団に追われてここにたどり着いた、という経緯が実際にあったのでしょう。

さて、その諏訪でチェックすべきものナンバー・ワンが諏訪大社。諏訪大社って4つもあるんですよ。知ってました? 上社・下社とあって、それぞれ、本宮・前宮、春宮・秋宮と分かれている。なんで4つもあるのかはさておいて、諏訪大社の神様は言うまでもなく建御名方命。はるばる出雲からやってきて、今はこの地で敬われています。
この4つもある諏訪大社のどこに行ったらいいのか。全部回る時間はないのでどこか一箇所または二箇所に決めねばなりません。そりゃあ、名前からしたら「上社本宮」がいかにもメインっぽいですよね。そこで、写真家のMOTOKOさんからタレコミ情報再び。「ともかく行くべきは上社前宮!」……言われるままにナビを上社前宮にセット。ビール工場と競馬場の間をぬけ、中央フリーウェイを西へ向かう西荻案内所一行です。

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諏訪に着きました。諏訪大社上社前宮は、ピカピカの御柱に囲まれていました。つい先日、数えで7年に1度の御柱祭を終えたばかりなのです。境内には欅の巨木が多数あり(本殿裏の巨木はすさまじい立派さでした)、御柱がつくる結界とともに、神域の空気を引き締めます。

MOTOKOさんが上社前宮をお薦めしたのは、「ここが一番、縄文の習俗を残しているから」という理由でした。諏訪地方というのは縄文時代の遺跡が多数あるんです。
でも神話の世界って、縄文よりずっとあとの時代を指してますよね。今回は実は、そのあたりのことが気になってたんです。そもそも諏訪に興味を持ったのは諸星大二郎『暗黒神話』でした。あの中でタケミナカタは異形の怪物として登場します。諏訪大社は、もともと諏訪にいたミシャグジという蛇の神様を祀っていたものともいわれています。『暗黒神話』に出てくるタケミナカタは明らかにミシャグジをイメージさせるもので、諸星先生はミシャグジ=タケミナカタというフレームをつくっていました。

ところが、現地に行くとちょっとニュアンスが違うんですよね。上社前宮のあとに行った、今回の事実上の目的地、「神長官守矢史料館」で教えてもらいました。

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神長官というのは、諏訪大社の神事を司る重要なポジションで、守矢さんは代々その神長官を受け継いで来た家です。明治時代に国家神道の方針で、神長官の世襲はなくなります。天皇家に準じた系統を持つ家柄を排除していくという方針があったんでしょうね。

もともと守矢さんは、そもそも諏訪あたりを仕切っていた「洩矢神」を祖先に持っているとされているのです。洩矢神って誰?古事記に出てこないんですけど……。

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上社前宮の最重要神事が4月15日に行われるという「御頭祭」。75頭の鹿の首や、串刺しにした兎を神饌として供えるのですが、神長官守矢史料館はその様子を再現しています。多くの神社が「農耕儀礼」であるのに対して、確かにこれは狩猟=縄文

館内で説明をしてくださったガイドさんの話を聞いていると、この地にもともといた洩矢の神がタケミナカタの神とモメて、結局洩矢の神はタケミナカタの配下となったという話があるんだそうです。タケミナカタは出雲から農耕をもたらしたんですよ〜という説明をスラスラとしていて、神話を完全に史実としてとらえていることに少々驚きました。

ちなみに、このディスプレイや建物は、守矢さんの隣に住んでいたという建築家の藤森照信さんによるもの。すぐ近くには照信さん作の有名な茶室もあったのでついでに行ってきました。

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この「高過庵」、御柱をイメージしているのでしょうね。2本の木だけで支えられているんです。ここと神長官守矢史料館の間に、超重要神社がありました。

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御左口神社。そう、ミシャグジ神社なのです。鹿の角や頭の骨がお供えされていました。つまり、ミシャグジとは洩矢の神さまのことであり、もともとこの地にいた縄文の神だったのです。諏訪大社で一番古く、縄文を髣髴とさせる最重要神事を擁する上社前宮の祭神は、本当は誰なのか。……おっと、これ以上言うのはやめておきましょう。

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見晴らしのいい山の上のそば屋で腹ごしらえ。

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このあとどこに行くか、暑さをしのぐために途中で寄った、その名も「エスケープカフェ」で作戦会議。せっかく縄文方面の見聞が深まってきたから、そっちの方向で行くことにしました。目指すは茅野の尖石縄文考古館

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ここには国宝土偶が2つもあるんです。ひとつがこの通称「縄文のビーナス」。たっぷりとデフォルメされたボディ。数千年前の作品とも思えぬフォルムの抽象加減。「歴史」に残らぬ豊かな文化がそこにあったんだということを、力強く示しています。

IMG_4394こんな遊び道具もあったんですけど、やけに難しいんですよね。模様の複雑さがそうさせているのだと思います。

IMG_4377いや、馴染みすぎでしょ! 縄文生活を実践している現地スタッフかと思いました。記念撮影?コーナー。

IMG_4373さり気なく展示されているこの土器、どこかで見たことがある!

IMG_1995井草八幡宮所蔵のわれらが顔面把手付釣手型土器にそっくりです! 分類としては極めて近い土器が西荻と諏訪のどちらもで出土しているんですよ。もうまちがいなく、大昔のつながりがあったのでしょう。ざっと5000年前の話です。
この尖石縄文考古館には、黒曜石もたくさん展示してありました。黒曜石は石器の材料で、簡単に鋭く加工することができ、鏃などで使われました。ここで採れた黒曜石をつかった石器は、西荻でもたまーに出土するんです。黒曜石って日本国内でもごくごく一部でしか採掘できないんですね。つまり大昔の諏訪の人びとは、貴重な黒曜石を使って交易をしていたのでしょう。それがもとで豊かな文化が花開いたと。
そこにタケミナカタがやってきたんです。おそらく金属製の武器を持って。文献はなにも残ってないけど、物が語る。
地質学の方はぜんぜんわからないのですが、2つの地質境界がまじわっていたから、黒曜石がいっぱい採れるということなんでしょうか。詳しい人にきいてみたいところです。

このあと、近くの「尖石温泉縄文の湯」にさっとつかり、山奥のシャレオツなパン屋でパンを買って、高速を東へ東へ。無事に西荻に戻りました。

せっかくだから車で行く店でごはんを食べようと選んだのが、善福寺の「くら寿司」でした。初体験でしたが、洗練されたオートマチック機構にびっくり。ははあ、これは行列ができるわけだ。大昔をめぐる旅の最後はなぜかSF的回転寿司で〆。寿司屋でカレーうどんやラーメンを食べながら、呆然と旅の余韻にひたる一行でありました。(おわり)

2 Replies to “日帰り諏訪の旅”

  1. 良いご旅行ですね。 ミシャグジ神社とか是非一度行ってみたいです。 後ろの木が迫力です。 チャンキーさんも縄文はまりすぎですね。 
    西荻との関連はぜひ、妖怪ハンター的に追及して発表していただきたいです。
    暗黒神話は私の小学生の時からのバイブルです。

    • 善福寺池の縄文土器とイノシシ伝説に頼朝が絡んでくる「西荻暗黒神話」、つむいでみたくもなりますね〜

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