西荻案内所旅日記(2)近江八幡〜台風の大阪へ

そもそも苗村神社の式年大祭を見る旅だったのですが、神社のある竜王町には宿泊施設がなく、近隣の近江八幡駅近くのビジネスホテルに泊まっていました。
近江八幡といえば観光地!……と思っていたのですが、駅周辺はまったくそういう雰囲気がありません。南口はどどーんと広大なイオンモール。駅近くもいわゆる郊外型のロードサイドで、日本のどこにでもある金太郎飴な店ばかりが並んでいます。

駅近くでどこかほっとできるごはん屋さんはないものか。ちょっとガイド本やグルメサイトを見てみたら、オリジナルな店はどこも「近江牛」推し。この辺りが本場ですから力がはいるのも当然ですが、移動続きだったので牛肉をがっつりというのはちょっと……。どこにでもあるチェーン店もしくは高級牛肉……。振り幅の大きさに攻めあぐねました。
それでふらふらとさまよっていたらようやく見つけたこのお店。
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駅からすぐの「みつわ」。テレビが流れているようなケの定食屋です。ただやっぱり地の物も少しチャレンジしたいというのでお願いしたのがモロコ。琵琶湖の小魚です。ごはんは新米で美味だったし、本当にほっと一息つくことができました。
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さて近江八幡市街は駅から少し離れています。そちらは歴史ある建造物も多く、市名の由来ともなっている日牟禮(ひむれ)八幡宮を中心に、観光地としてかなり整備されています。
まず向かったのはホテルで入手したチラシの中でもとても気になった「ボーダーレス・アート・ミュージアムNO-MA」。歴史ある古民家を美術館に改装。建物も素敵だけどコンセプトもとても魅力があります。ものをつくるエネルギーそのものを「アート」として提示しているという印象を受けました。それはただ美しく手触りのさわやかな、かつカネの匂いのする「アートと呼ばれるもの」よりずっと上位にあって、アートが本来持つ、既成概念の破壊や新たな視野の獲得というものが、力強く肯定されているのです。
この日にやっていた展示は「快走老人録2 老ヒテマスマス過激ニナル」。
おもしろい案山子作品や、ベートーベンの「運命」に合わせて実母をもてあそぶ老芸術家のビデオアート(?)、蒐集狂のコレクション展示など。人生楽しく突き進みたいものです。
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展示コレクションの一部です。「数字」「うなぎ」「家紋」とはなんぞや?
そのうちの一つ「数字」を開いてみると、
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全て「萬」の字が入った店名の箸袋! このスクラップブックは各ジャンルに分類された箸袋のコレクションなのです。背表紙だけでもう圧倒されました。

さて、そこから少し歩くと、ヴォーリズが住んだ家がありました。ヴォーリズは、アメリカ生まれの実業家で建築家。近江八幡に暮らし、キリスト教の伝道活動や、教育普及、はたまたメンソレータム製造販売まで、とっても多彩な活動をしました。
西荻で例えると、内田秀五郎とアントニン・レーモンドを足して2で割ったような人物、と言えば、ごく一部の人にはその偉大さがなんとなくわかりそうな気がします……いやむしろ混乱させたかしら……近江八幡にはそのヴォーリズがつくった家が多数残っており、折しも没後50年ということで、街を上げての「ヴォーリズ・メモリアル」というイベントをやっている最中でした。
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近江兄弟社学園内にある教育会館とハイド記念館(いずれも登録文化財)にも入ることができました。ここでは全国に散らばるヴォーリズ建築のパネル展示など。われらが西荻の東京女子大学もそうですが、歴史ある建物が身近にある教育環境は本当にうらやましいですね。耐震だのなんだのと理由をつけて壊すのはあっという間。つぶしたものはもう二度と取り戻すことはできないのですから、これからも大事にしてほしいです。

近江八幡ではもちろん観光案内所にも行きました。案内される側になってみると、いろいろと勉強できますね。この時は案内の方に「どこのでっち羊羹が美味しいですか」という、少々いじわるな質問をしてみました。でっち羊羹というのは、竹皮に包まれた素朴な羊羹で、近江八幡の名物です。案内の方はしばし考えたのちに、あまり大きくない声で「◯◯が有名ですし、お店も近いですよ……でも地元ですと□□の羊羹を買いますかねえ」。立場上、優劣はつけられないのでしょうが、案内される側としては、御仕着せの情報ではなく、リアルな声が聞けるのがやはりうれしいのだなあと身を持って感じました。

さて、スーパー平和堂で赤こんにゃくと丁字麩も買ったし、翌日は一路大阪へ。近江八幡駅前のチケットショップで切符を買うと、駅で買うより少し安くなるのです。それで受け取った切符にびっくり。
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近江八幡→栗東、栗東→京都、京都→大阪の3枚組。西村京太郎トラベルミステリーばりのパズルです。これのほうが安いと発見した人もヒマというかなんというか。
大阪では10年ぶりの維新派大阪公演『透視図』を見に行くことにしていました。実は前回2004年の大阪公演『キートン』も見ています。ただ折しも「最大級」とウワサの高い台風19号が接近中、JR西日本がはやばや「16時以降全線運転中止」のアナウンスを出しているという事実上の非常事態。この日の公演は中止となってしまいました。野外公演ですから仕方ありません。大阪駅の改札前には台風報道のレポーターがずらりと整列していました。ともかく大阪まで来れてよかったです。
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大阪ではチャンキー松本さんに書いてもらった「おすすメモ」を頼りにしました。お好み焼きは「白兎」か「美舟」とのこと。「美舟」は大阪駅からほど近い! ランチはここに行ってみます。近江八幡でもそうでしたが、ガイドブックでない生声の案内(メモですが)があるのは本当にありがたいです。ガイドブックやネットではなく、知っている人、地元の人のオススメ、つまり口コミが一番信頼性の高い情報なのですから。
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というわけで「美舟」。想像以上に味わいのある店構え。お好み焼とチャンキーさんオススメの焼きそばを注文します。大阪のお好み焼きはまずはタネを自分でかき混ぜるんですね。これが容器からこぼれそうになって難しい。モタモタ混ぜてたらお店のおばちゃんに無言で取り上げられてしまいました。
常連のサラリーマンやカップルが小さな座席にぎゅうぎゅうになってお好み焼や焼きそばを食べている。迫力がある風景です。私どもは見るからに「観光客」なのでやさしくしていただいた感じでした。お好み焼も太麺の焼きそばもおいしかったです。

その後は宿に早めに到着。風もどんどん強くなり、夕食はホテル近くにあるコメダのテイクアウト。旅先で台風ニュースを見ながらの味噌カツサンドも美味でした。(つづく

2 Thoughts to “西荻案内所旅日記(2)近江八幡〜台風の大阪へ

  1. […] (前の続きから)翌朝は快晴。台風一過です。維新派公演はやむなく中止となってしまったのですが、せめて会場だけでも一目見ようと、タクシーをつかまえて行きました。タクシーの運ちゃんは公演中止の件を聞いて、「これがほんとの『おとといきやがれ』ってやつやなw」とか言うのでキレそうになりましたが(笑)、川のほとりにある会場に着いて、そこに吹くゆるりとおだやかな風でほっとした気持ちになりました。運ちゃんもひと休み、空を見上げて気持ちよさそうにたばこをふかしていました。 たまたま入り口に現れた人(たぶん出演者)に、声をかけましたところ、劇場を見せてもらえることになりました。演出内容もちょこっとだけ教えてもらいながら。脳内妄想で再現される維新派の舞台は、やはり巨大スケールでした。 […]

  2. […] にぎやかなお囃子をだだっぴろい田園に響かせながら、山車が通り過ぎて行きました。長い長い行列のずっと遠くまで、さえぎるものはありません。一行が向かった御旅所では、さまざまな出し物が披露されたそうです。 町の人がお互いに顔を合わせ、手探りの中から33年ぶりに再び息をふきこむ作業を経たこのお祭りは、素朴ながらもよそ者が立ち入ることのできない崇高さを感じました。(つづく) […]

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