(前回まで)骨董店・木土藍楽の渡部さん(ナベさん)の仕入れに便乗して山形へ。温海温泉から東京に戻ります。
今回が最終回。ここまでのまとめです。
山形に行ってきた(0)旅行計画
山形に行ってきた(1) 聖地に近づくその1
山形に行ってきた(2)「旅のロマン」を求めて
山形に行ってきた(3)勝負師、北へ
山形に行ってきた(4)瀬見温泉の喜至楼その1
山形に行ってきた(5)喜至楼その2〜五月雨最上川
山形に行ってきた(6)聖地に近づくその2
山形に行ってきた(7)温海で和亀捕りのおばちゃんに出会う
今日はあつみ温泉駅から東京に戻ります。
新庄までもどり、それから山形新幹線に乗るのもあるのでしょうが、戻るよりは前に進もうというわけで、羽越本線で新潟方面へ向かうことに。
温海温泉からほど近い「鼠ヶ関」に、よさげな灯台があることは事前調査で知っていたのですが、加茂水族館で灯台ハントをしてしまったので、今回は通過。
到着した列車は二両編成、前と後ろで色違いになっていて、前には男子学生、後ろには女子学生ばかりがなぜか乗っており、それぞれおそろしくにぎやかでした。朝の陽光に照らされきらきら光る日本海を見ながら、列車は新潟方面へ。奇岩が連続する「笹川流れ」を過ぎたあたりでしょうか、景色を見ているうちにだんだん眠くなってきました。気づくと女学生たちは全員下車し、車両には私たちだけになっていました。
村上駅が終点。乗り換えに30分以上あるので、ぶらり途中下車です。
駅前にステキ案内所あり。筆字の看板、昔ながらの商家建築で、屋根には太陽光パネル、隙がありません。案内所を見つけたらもちろん「視察」です。ここで本を買って再び列車へ。
今回の旅ではいくつかの本を事前に読んで事前調査しました。また、旅の途中で購入した本もあります。それから、「これは読んでおけばよかったな〜」という本もいくつかありました。ちょっとここらで、山形県を知るための本、旅で出会った本をまとめておきます。
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山形を知る本
東北旅行の大先輩、松尾芭蕉先生の「おくのほそ道」を挙げねばなりません。山形を知るための最重要文献その1です。
そこかしこに芭蕉の足跡があり、これを事前に読んでおけば、10倍は旅が楽しめたんじゃないかと思いますね。ナベさんが嘆いておりました。「芭蕉が最上町で詠んだ句、『蚤虱馬の尿する枕もと』ってのがあるんだけど、宿でぞんざいな扱いを受けたことが記録として残っちゃってるんだよね。こんなことだったら、もうちょっといいところに寝かせてあげればよかったのに……」。何百年も読まれ続ける古典にログが残るってのはおそろしいことです。
もうひとつの最重要文献は、イザベラ・バードの「日本奥地紀行」。実は鞄の中にひそませていたのですが、読む時間がありませんでした。
本来なら日本人が残しておくべき事柄なのでしょうが、近すぎてその大切さがわからんのでしょうね。結局「よそ者」がまとめたこの紀行文が当時を知る一級史料になっています。読んでおくと、かなり見えるものが違うのではないでしょうか。次に山形に行く時までには読んでおきたい一冊です。
瀬見温泉の「喜至楼」の写真を個人アカウントでUPした時に教えてもらったのですが、つげ義春がこの「つげ義春の温泉」のなかで喜至楼をイラストにしているんだそうです。まだこの本自体を手に取っていないので、詳細がわかりませんが、近々入手したい一冊。
「ゲンセンカン主人」なども温泉地が舞台でしたし、漫画作品のほうも再チェックしておいて損はなさそうですね。
結局事前に読めたのはこの一冊だけ。司馬遼太郎「街道をゆく10 羽州街道」。とはいえこの本がカバーするのは主に米沢。米沢藩の士族たちのことが、例の如くの博覧強記、司馬遼太郎節全開で書かれています。今回は米沢方面にいかなかったので、ちょっと的を外してしまったかもですが、そっち方面に行くならチェックしておくと楽しめるでしょうね。
坂本大三郎「山伏ノート」。坂本さんは若き山伏として活躍中。西荻窪のおとなり、荻窪駅近くにある有名カフェ「6次元」でトークショーもされていました(タイミング悪く行くことができなかったのですが)。
この旅行記の3回目「「旅のロマン」をもとめて」の回で立ち寄った山形市七日町のとんがりビル内ショップ「十三時」の経営者でもあります。私たちが行った日もレジにいたのは坂本さんでした。この時「十三時」で購入した本も、とってもオススメ。
「山形をいく REDISCOVER YAMAGATA」(みちのおくつくるラボ編・平澤まりこ絵)がその本。山形に生きるさまざまな方の「STORY」が綴られ、美しい写真と平澤まりこさんのイラストが添えられています。判型もかわいらしいです。この本は「山形ビエンナーレ〜みちのおく芸術祭」の時に発行されたものです。ビエンナーレは2年に1回。今年10月ころにまた芸術祭があるそうですよ。
その下にあるのは途中下車した新潟県村上市の観光案内所で入手した「むムm むらかみのごくごくふつうのくらしをならべてみました」という本。村上の特徴を「町」「家」「食」、そして「鮭」と「茶」という5つのカテゴリーに分けて紹介しています。イラストもきれいで見やすく、図鑑のようで、なにより村上を愛している人たちがつくっているんだということをひしひしと感じることができる、すばらしい本でした。わたしらがつくった「西荻観光手帖」のコンセプトにも似ています。いろんな地域でこういう本ができたらまず買うなあ。村上に行く人はまず、観光案内所でこれを買ってください!
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さて、その観光案内所で、村上名物の紅茶(のペットボトル)を買い、新潟までの電車で、温海温泉で買った栃餅を食べました。
栃餅は、やわらかく、中のあんこはやさしく甘く、栃の独特の味わいもあって、とても美味しいものでした。たくさん入っていたので、残りは明日の朝に食べようと西荻まで持ち帰りましたが、翌日にはもうすっかり固くなっていました。西荻でもちゃんと毎日お餅を搗いている和菓子屋さんの大福は、翌日固くなってしまいますよね。一日経った栃餅をかじりながら、毎朝ちゃんと栃餅をつくっている、山形のあの小さなお店のことを思い出しました。(「山形に行ってきた」終わり)