西荻観光手帖 発売中。

 

この4月から西荻暮らしを始めました!

……そんなみなさんにおすすめの本を、以前に企画・編集しました。

 

「西荻観光手帖」

西荻窪商店会連合会=発行 西荻案内所=企画・編集

2014年1月発行 2015年3月改訂版発行

 

今野書店信愛書店、青梅街道のTitle茶舗あすか ほかで発売中です(税込1,620円)。

 

以下、西荻観光手帖についてのながーい解説です。

 

1 二冊の参考書からヒントを得て

西荻案内所をスタートした2013年ころのこと。西荻に特化したガイドブックをつくってみたいなあと、ぼんやりと思っていました。

偉大なる西荻先輩、ニヒル牛さんつくった『Nishiogi  Lovers’ Book』がオンリー西荻の本としては当時唯一のものだったように思います(現在は完売)。この『Nishiogi  Lovers’ Book  12の地図付き西荻案内』がおもしろいのは、執筆者個人がそれぞれのテーマに沿って、それぞれの「西荻」を紹介しているところです。その中には、モガの淺井カヨさんが案内する骨董店めぐりや、秋田ばる七尾の七尾さん(当時はTHEロック食堂の店長でした)が披露する西荻内引越し遍歴、白ふくろう舎さんや石川あるさんたちによる喫茶店案内、グルメな記事はもちろん、パン屋を紹介する記事、ジャム職人のスイーツ案内のほか、西荻に落ちていた物を観察する「西荻落とし物マップ」というのもおもしろかったです。

それぞれが偏愛する西荻が一つの本にまとまって、多層的に展開するすてきな本で、西荻案内所活動の大いなる参考書となりました(ちなみにこの本が発売されたのは、ニヒル牛の企画、その名も「西荻観光案内所」にあわせてでした)。

案内所オープンから一ヶ月くらい経ったある日、当時の商店会長さんがやってきました。「商店会に降りる予算があるからなにかチャレンジしてみなよ、たとえばあなたたちが西荻夕市のときにやってる『西荻観光案内』、あれのイメージで、西荻ガイド西荻コンシェルジュを養成して揃いのブレザーやハッピをつくるってのはどうよ」。
これまで数々のイベントをつくってきた商店会長さんによるニューアイデアです。それにしたって、ブレザーやハッピはあくまで見た目だけ。せっかくつくるならやっぱり実のあるものにしたいなあと思いました。そこでどんなことをしたらいいのか、考えてみることに。

それで以前に「これいいなあ〜」と思った本を思い出したんです。
それは愛知県蒲郡市に移住した「西荻丼」2代目編集長・ライターの大宮冬洋さんのところに遊びに行ったときのこと。大宮さん行きつけの蒲郡「カフェ・スロース」で珈琲を飲みながら、おもむろに本棚をながめるとそこにあったのが、蒲郡の観光ガイドブックでした。このガイドブックがお世辞にもおしゃれとは言いがたいもので、どちらかというと教科書の副読本に近いデザインだったように記憶していますが、これがすこぶる読みやすい。蒲郡の全体像がじわっと頭に入ってくるすぐれものでした。
蒲郡のことはは行くまでなにも知らなかったのですが、関東でいうと江ノ島周辺のような雰囲気のあるとっても広々とした海沿いの街です。竹島という島を中心に水族館やレジャーランドがあり、魚介とみかんが名産。アメリカズカップ出場のヨットが駅前のシンボル。こんなことがスラスラと入ってきた。

一般的なガイド本だとこうは行きません。大きめに使われている美しい写真を覆い隠すいきおいで情報が入り込み、ページをたぐればグルメ情報や宿の情報、楽しいアクティビティの情報が入り混じって、とにかくよくわからないけど、なにやらいろいろある、ということだけが見えてきます。頭で情報が処理できないのです。
それに比べてこの蒲郡のものは、いたってシンプルで色気もなし。でもそのかわり、スラスラ入ってくる。それもそのはず、このガイドブックは、蒲郡に来た人のための観光ガイド本ではなく、蒲郡に住む人が観光コンシェルジュになるためのあんちょこ本だったのです。

というわけで商店会長さんには、西荻のガイドあんちょこ本を作りたいということで相談することにしました。
西荻に住んでいる人なら一度くらいは、友だちを西荻に誘いこんで街案内をしたことがあるんじゃないでしょうか。その時に役立つような本です。お店の人が読んでおけば、お客さんとの話のネタにもなる。また、住んでいる場所を知ることで愛着がわく。住んでいてますます楽しくなる。長年住んでいる人との共通の話題もできる。もちろん長年住んでるからって、なんでも知ってるとは限らない。西荻の場合は、駅付近で学区や神社の氏子がわかれますから、隣の地域のことだと知らないことも意外と多いのです。
そんなことで相談をしたら、「それなら検定試験とセットにしよう!」と会長。こうして、『西荻観光手帖』と「西荻検定試験」のセットの構想ができました。同時に「西荻学習会」というレクチャーをやって、専門知識のある人たちからの助言や協力を得ることを前提にしました。

 

2 西荻のゆらぎないものとは

いろんな雑誌で西荻が特集されています。そういったもの掲載されるのは、たとえば今なら、居心地のいいカフェや美味しいビストロ、日本酒が揃ってる居酒屋に刺戟的なバー、個性的な雑貨店にアンティークショップ、職人気質の専門店などです。でもお店の情報って、営業時間や業態の変更もあるし、場合によってはそのお店自体がなくなっちゃうことだってある。雑誌の宿命ですが、情報には「旬」があって、それはまた時代をとらえたものであり、後から読み返すとそこがおもしろかったりするわけですが、でもやっぱり情報として古くなってしまう。今回はもっと長いスパンで使えるものを作りたかった。そこでこの『西荻観光手帖』では、いっそのこと、お店の紹介をするのはやめてしまおう、という方針にしました。

発行母体となる西荻窪商店会連合会には、全部で約1,000軒のお店が加盟しているといわれています。もしお店を載せるのならば、商店会の名前で出す以上、できるだけバランスを取りたい。でもそれは、よくあるガイドブックのような情報過多になる可能性が高い。おそるおそる商店会長さんにその旨を伝えたところ、意外とあっさりOKが出ました。

お店についてはこのガイドを利用する人が各自、補足していけばいいのです。『Nishiogi Lovers’ Book』もそうですが、人それぞれの西荻があるわけで、そういう意味でいったら人の数だけのガイドブックができることになる。それを見越して、あえて「本」にせず、リングでまとめたリフィール式になっています。持ち主は自分にとって必要な情報を増補していくことで、自分の『西荻観光手帖』を育てていくことになります。こちらが提供するものはあくまでベースの部分。つまり西荻にとってゆらぎないもの、西荻の地面に染み込んだ風土や歴史といったものをまずしっかり紹介していこうということになりました。

かくして、商店会が発行するのに、お店の紹介がほとんどないという異例のガイドブックの編集作業が始まりました。

そんなことを考えながら絞られたのが「歴史」「自然」「文学」「建築」の4ジャンル。それに基本情報を加えて構成することになりました。それぞれのパートは、しかるべき人に協力または監修をしてもらうことにしました。

冒頭は「西荻基本情報」。

西荻で「名所」といえる場所の紹介や、西荻でやっている行事をまとめた「西荻カレンダー」、定期的にやっているイベントの情報など。それから、西荻とはそもそもどこからどこまでかを規定しておかねばということで、異論はあるでしょうが、西荻の範囲を冒頭に定義して、その面積や人口を調べました。あと、籔内佐斗司さん作の西荻六童子像、西荻の二大キャラクターとしてハローくんとピンクの象を紹介(当時はまだにしぞうはいません)。商店会最大イベントのハロー西荻の紹介。建築史家の禅野靖司さんには「西荻はパリ説」についてのコラム、『中央線の呪い』の著者・三善里沙子さんには「中央線文化の中の西荻」というコラムを書いてもらいました。カレンダーのイラストは曽根愛さん。

 

次に来るのは西荻の歴史についてのページ「西荻歴史観光」です。
「西荻の歴史」って、「西荻窪」という駅名ができたところが最初ですから、厳密に言うとまだ100年経ってない。だから「縄文時代の西荻」という表現には違和感があるわけですが、そこをあえての「縄文時代」からたどって、この土地に染み込んだ歴史を紐解いていきます。イラストはさくらいようへいさん。文章はワタクシです。さくらいさんは西荻手しごと市でイラスト展示をしていたときに声をかけたのがきっかけで、濃密なイラストを描いてもらいました。さくらいさんはその後、「毎日小学生新聞」で「ニッポン武将名鑑」を連載することに(連載継続中)。

歴史関係の資料では図書館にも入っている「杉並風土記」という本があって、大いに参考にしました。杉並の郷土史家・森泰樹さんはほかに、『杉並区史探訪』『杉並歴史探訪』などの著書があり、森さんの各著書と杉並区郷土博物館発行の各種資料がこのコーナーを書くにあたってのベースになっています。『杉並区史』も参考にしましたけど、こっちは伝説系はけっこうスルーなので、区史だけだと色気がなくなるんです。ほか、商店会長さんなどを通していろいろな人から提供してもらった「西荻昔写真」コーナーや、西荻の宗教民俗を研究している大学院生(当時)・宮内七生さんによる記事などがあります。ここでいう宗教民俗というのは、石仏とか庚申さまとかのことです。

次は「西荻自然観光」。
日本野鳥の会発祥の地といわれる善福寺公園。創設者の中西悟堂が近所に住んでいました。「西荻自然観光」は、善福寺公園で見られる30種の野鳥の野鳥図鑑、同じく公園で見られる四季折々の動植物、それから西荻の巨樹を紹介しています。野鳥図鑑は西荻北のFALLで個展をときどき開いているユカワアツコさんのイラストで、文は善福寺公園のギャラリーでときどき野鳥写真展を開催する写真家の西村眞一さん。
「善福寺公園の動植物」イラスト担当は尾崎智美さん、文章は畑菜穂子さん。「西荻の巨樹」はイラストチャンキー松本さん、文は畑菜穂子さん。
本当はほかに、善福寺川や湧水のことも取り上げたかったのですが、この時は時間切れ(その後、暗渠や下水道のこととセットになって「西荻ドブエンナーレ」というイベントになっていったように思います)。

 

それから「西荻文学観光」。
ほぼ毎月のトークイベント「西荻ブックマーク」のスタッフを中心にした「西荻文学散歩の会」の奥園隆さんに監修をお願いしました。西荻に住んだ文学者たちをチャンキー松本さんの似顔絵イラストで紹介するコーナー、界隈の文学者の足跡に詳しい萩原茂さんに、「こけし屋とカルヴァドスの会」についての記事を書いてもらい、古書音羽館広瀬洋一さんには西荻の古書店のことを、また木村カナさんには「西荻ブックマークの活動」について書いてもらっています。それから、西荻が出てくる小説、エッセイや日記、まんがなどを紹介する「西荻の本」紹介コーナーも。こちらのまとめは西荻丼メンバーのイイダアリコさんにやってもらい、一部は奥秋亜矢が執筆しました。

そして「西荻建築観光」。
杉並区内の歴史ある建物の調査や保存運動をしながら、場合によっては文化財登録のサポートも行っている「杉並たてもの応援団」というグループがあります。以前に杉並たてもの応援団が主催する西荻の建築めぐりツアーに参加し、このまちの風景となっている建物に気づくことができました。西荻は長い歴史がある土地ではありませんが、戦前の近代建築を中心に、住宅街にいくつかいい建物が残っています。杉並たてもの応援団の田村公一さんほかにチェックをしていただきながら、建物の見方、建築散歩の仕方、登録文化財建築の一欅庵東京女子大学のアントニン・レーモンド建築などを紹介しています。

以上が「西荻観光手帖」の基本構成です。多くの人の協力を得て(しかもほとんど西荻の人!)刊行にこぎつけました。デザインはフログラフ・加藤敦之さん、西荻丼5代目編集長の有田夏希さんとねもとなおこさん、と奥秋圭(掲載写真のほとんどと一部の執筆もやってます)。

 

3 「西荻は観光地ではありません」

 

この冊子のキャッチコピーは「西荻は観光地ではありません」です。『西荻観光手帖』をタイトルにしながら、その一方で「観光地ではありません」と念押し。矛盾した命題をいきなり提示してしまっています。これはどういうことなのでしょう。

ここ最近はインバウンド(外国人観光客を呼び込む)が声高に言われていて、杉並区に限らず、全国的に観光が行政の施策の軸のひとつとなっているわけですが、ちょっと冷静に考えてみましょう。西荻でインバウンドの観光に耐えられるものといえば、柳小路ほか駅南口の飲食店街と、あえていうなら杉並アニメーションミュージアムでしょう。それから雑貨屋さんやアンティークショップも魅力的かもしれません。でもインバウンドの観光客が大量に押し寄せる西荻はあまり想像ができません。
これから2020年の東京オリンピックに向けてますます世の中が浮足立ってくる中で、きっといろいろな整備が進んでいくわけですが、西荻でできることはその喧騒の中においても「日本の日常」を見せていくことなのかなあと思います。わずか二週間のオリンピックに注力するあまり、大切なものを失わないようにしたいものです。

『西荻観光手帖』は、西荻ガイドのあんちょことして利用をしてほしい、ということでまとめているわけですが、だからといってやっぱり観光地ではないし、これから観光地としてガンガン売り出したいわけでもない。たしかにいいものがたくさんあるけど、住民はじめ西荻を愛する全ての人が、「ふだん着の街を楽しむ」ことを前提にしたかったのです。

こじんまりしたこのまちには、のんびりと自然と共存する暮らしがあり、個人店主が構えるおいしい店や、オリジナルで質が高いものがある。そこにひそんだ気遣いやこだわりをていねいに受け止め、時には驚きながら、街を楽しんでほしい。そのとっかかりとなるものとして編集したのが『西荻観光手帖』です。

「観光」というパッケージを西荻にあてはめてみるとこうなるよという「見立て」であり、そういう意味では一種の「遊び」であることを、矛盾したキャッチコピーで示したかったのです。

 

4 姉妹編の紹介など

 

西荻観光手帖には2つの追加コンテンツが出ました。
一つは『西荻夕市観光案内』という小冊子。2015年10月までやっていた街めぐり企画「西荻夕市」の1企画だった「西荻観光案内」の様子をまとめたもので、夕市参加店を中心に、お店めぐりを軸にした3+1コースと、カレーのカタログ、パン&スイーツ、西荻の手みやげなどを紹介する内容。無料配布であっという間に在庫がなくなってしまった幻の冊子です。準備ができたらそろそろデータをWeb公開しちゃおうかなと思ってます。

もう一つは「西荻式ダイエット」。『西荻観光手帖』に興味を持ってくださったちぎら医院の千木良淳先生が、ふらりと案内所にたちより、これに入れられる形でダイエット本をつくりたいんだけど、と依頼をいただきました。まさかダイエットの本が姉妹編になるとは思いませんでした。『西荻式ダイエット』は、冊子版が改訂増刷されたのちに、徳間書店からなんと単行本として出版されることになり、西荻の各書店で販売をしています。

ほか、西荻ドブエンナーレ(2016年)のまとめや、「縄文」に特化したものなど、増補のプランはあるんだけど、そちらはまだ実現できず。

とか言ってる間に実は、西荻観光手帖は在庫僅少になってきています。改訂増刷の予定は今のところないので、買えるのも今のうち? 各書店、それなりに目立つところに置いてくださっていますので、ぜひ見てみてくださいませ〜!

 

 

 

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