杉並風土記 ほか全6冊(西荻本紹介3)

杉並風土記 (上・中・下)・杉並區史探訪・杉並歴史探訪・杉並の伝説と方言

西荻にまつわる本を紹介する「西荻本紹介」、本日は『 杉並風土記 』(全3冊) はじめ、「杉並郷土史叢書」シリーズ全6冊を紹介します。

杉並風土記
中巻には西荻エリアのことは載ってません。

杉並区の郷土史を網羅する基本資料

1974年から1989年にかけて出版された「杉並郷土史叢書」シリーズ全6冊。杉並区の基本郷土資料として、区立図書館にも配架されています。著者は杉並郷土史会の中心的人物・森泰樹さん。『西荻観光手帖』の歴史ページ(2014年・現在ウェブ版「西荻歴史観光」として順次公開中)や毎年発行の「西荻まち歩きマップ」の中の地域トリビア情報をつくるにあたって、大いに参考にしました。刊行順にチェックします(ただし『杉並風土記 中巻』は、内容が西荻エリア範囲外なので割愛)。

1  杉並區史探訪

シリーズ第1弾は『杉並區史探訪』(1974年)。明治生まれの古老たちに聞いた、杉並区内各地に残る歴史や言い伝えをまとめています。西荻に関係の深いトピックとしては、「伝説、豊島合戦」「太田道灌の旧蹟」「井草村と年貢」「遅野井村」「今川氏とその後裔」「今川領小前騒動」「善福寺弁天と雨乞い」「内田秀五郎翁」「五日市街道」「松庵と江戸紫」というのがあります。古文書や論文資料などにあたりながらも、基本的には古老の話をベースにしているので、史実に基づく話もあればちょっと不思議な話もあり。刊行時には存命にもかかわらず、歴史枠として紹介される内田秀五郎さんはすごいなあ。

2 杉並歴史探訪

『杉並歴史探訪』は1975年刊行。『杉並區史探訪』の続編。前作が大変に好評だったのでしょう。
旧4村(杉並村・井荻村・和田堀村・高井戸村)ごとにまとめられた歴史や言い伝え(なるべく前作と重ならないものが選ばれています)と、杉並区内のわらべうた、お念仏、流行歌、昔の校歌などを掲載。西荻エリアでは「旧・井荻村」の項に「今川観泉寺」「井草の藍」「たくあん漬の話」「荻窪八幡神社」「荻窪の昔話」が載っています。「荻窪の昔話」は古老の座談会。善福寺川には昭和初期までかわうそが棲んでいたとか。

3  杉並風土記 上巻

杉並風土記 』は、前作『杉並歴史探訪』で4村ごとにまとめられていたものが、それより以前の村である20ヶ村にわけて紹介されています。全3巻。上巻は1977年6月に刊行されました。
この本の第二章が「旧上荻窪村」、第三章が「旧上・下井草村」となっています。各村の地名由来から、縄文時代、中世、江戸時代、明治・大正とおおまかにたどり、言い伝えから産業まで、網羅的に紹介しています。巻末には、1922年生まれで学徒動員中の1944年に病没する梅田芳明さんが遺した『武州多摩郡上荻久保村風景変遷誌』が掲載されています。
1922年といえば、西荻窪駅ができた年にあたります。その後人口が10倍にも増えたといいますから、みるみる変わる郷里の風景を、なんとか残したいという思いが梅田さんにはあったのでしょうね。

4 杉並の伝説と方言

『杉並の伝説と方言』(1980年)は、このシリーズの第4弾。ふたたび旧4村ごとに、今度は「伝説」にしぼって紹介しています。これまでの著作との内容のだぶりがありますが、文章の感じや文字サイズ、行間隔などを見ると、郷土史入門的な位置づけの本となっています。
第5章は「杉並で使われた方言」として、杉並区内の古老から収録した言葉をまとめています。そもそも、もともと杉並エリアのみで使われていた言葉というのは多くはないし、なにしろ流入人口の多いエリアなので、独自性は薄いのですが、今見ると「え、それは方言?」みたいな言葉も多く、この数十年で武蔵野方言の中から一般化した言葉もあるのかもしれません。「あくどい」とか「あさっぱら」とか「いかさま」とか。特に杉並オリジナルなものは強調されていて例えば、「いもめいげつ」(→十五夜のこと)とか、「けつまんぜえ」(→とんまな人)とか、いろいろあります。ちょっと荒っぽい言葉が多いかな。

5 杉並風土記 下巻

『杉並風土記』中巻は高円寺村・馬橋村・阿佐ヶ谷村・天沼村が掲載されていて、いずれも西荻エリアにからまないので省略し、下巻を紹介します。刊行は1989年。これにて完結です。「杉並風土記」の草稿は1970年から書きはじめたとのことなので、実に20年の歳月。上巻刊行後しばらく執筆が進まなかったのですが、大病して「このまま未完成では死にきれない」と一念発起、中巻・下巻が完成しました。下巻には和田堀村、高井戸村と収録されていて……あれ? 20ヶ村で紹介するはずが、そのあとの時代の4村の仕分けになっていますが、それはまあおいとくとしましょう……旧高井戸村には現在の「宮前・松庵・西荻南」が含まれます。春日神社で稽古している大宮前ばやし、慈宏寺、都立西高、松庵稲荷と円光寺……などが紹介されています。

著者の森泰樹さん

著者の森泰樹さんについて、『杉並風土記』下巻の巻末にプロフィールが掲載されていました。引用します。

森泰樹(もりやすじ) 大正8年(1919年)富山県に生まれる。食料品はるさめ製造会社を経営し、製法特許3件、実用新案2件を持ち、業界の近代化に貢献し、全国組合の専務理事を20年間務める。昭和45年より郷土史研究を始め、杉並郷土史会会長を務めながら、『杉並区史探訪』『杉並歴史探訪』『杉並の伝説と方言』『杉並風土記』その他を著す。

あっ、「やすじ」さんだったのですね。間違えてました。春雨製造のエンジニアで経営者とは、以外なキャリアです。「森泰樹 春雨」で検索してみたらば、森さんの実用新案に関する記事をウェブ上で見つけました。

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