ササユリカフェ で「 なつぞら 」を見る

ササユリカフェのこと

西荻北の伏見通り、西京信用金庫のビルの4Fにある ササユリカフェ 、オーナーの舘野仁美さんは、スタジオジブリで主に「動画チェック」という重要ポジションを長年担っていたアニメーター。『となりのトトロ』以降、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』などなど、ジブリ作品のエンドロールにはそのお名前が。ジブリでの経験をまとめた『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』( 中央公論新社)という本も出していて、こちらも読みごたえたっぷり(上記リンク先は西荻案内所による紹介感想文)。

舘野さんが、スタジオジブリの制作部門解散を機に一念発起して西荻窪で ササユリカフェ をオープンしたのが2014年のこと。ササユリカフェはホテルのラウンジのようなしつらいで、ノマドワーカーにぴったりの会員システムがあったり、テラス席の見晴らしがめちゃよかったり、カレーが美味しかったりします。

ササユリカフェ のカレー(あいがけ)

カフェに加えて、併設のギャラリースペースではアニメ関連の展示企画をスタート。これまで、『交響詩篇エウレカセブン』の吉田健一さんや、『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』の片渕須直さんなど、アニメファンの心に刺さる展示が次々と実現してきました。アニメーションの制作現場と人をよく知り、情熱を持って働いてきた舘野さんのためなら、と創作の秘密を公開するクリエイターたちの心意気を感じます。アニメファンやクリエイター、クリエイターの卵たちにとっても貴重な場所となっている「ササユリカフェ」。

ササユリカフェ店内

NHK連続テレビ小説「 なつぞら 」大抜擢

そんな舘野さんが、アニメーターを主人公にしたNHK連続テレビ小説『 なつぞら 』のアニメーション監修になったというニュースが飛び込んできました。経緯は「女性自身」の記事がくわしいのでそちらを読んでほしいのですが、舘野さんは、ササユリカフェのお客さんでもあった若きアニメ作家・刈谷仁美さんを推薦し、刈谷さんが「なつぞら」のタイトルロゴやオープニングアニメの監督・原画などを手がけています。舘野さんは(余談ですがどちらも偶然にヒトミさん)、アニメーションの監修をされています。具体的な仕事は多岐にわたっていて、撮影小道具(セル画や原画や絵コンテや設定画など)づくりの監修、撮影現場でのアニメーターの所作の指導、ドラマに出てくるアニメ映画のポスターやドラマに出てくるアニメ自体の制作(!)など。アニメの現場を知る舘野さんがリアリティを補強していくと同時に、ドラマの小道具としてのアニメもつくってしまう。しかもカフェをやりながら?? いったいどうなっているの?

「なつぞら」、タイトルバックのアニメ(←Youtubeへのリンク)も新鮮だし、ストーリーもいいし、草刈正雄はかっこいいし、なにより広瀬すずがかわいい!……というおっさんの叫びはさておき、いいなあと思うのは、アニメ制作に向かうなつが、一直線でアニメに行くのではなく、演劇など他分野との交流や紆余曲折を描くことで、アニメの業界だけじゃない時代全体の空気感が見えてくるところ。

それでびっくりしたことその1。NHKで「なつぞら」のメイキング番組をやってて、それに舘野さんが出てきたんだけど、舘野さんたちがアニメの制作をやっているスタジオというのが、これがどう見てもササユリカフェ。ということは、オープニングのあのアニメ、どこか別の場所にスタジオがあるんじゃなくってササユリカフェでつくってたんだ! カフェ営業の後や定休日などに、アニメ制作の道具たちがごそごそっと出されてきて、「なつぞら」のアニメをつくってるということ?

さらにびっくりしたことその2。わりと最近のドラマの展開なのですが、ドラマの主人公なつが結婚して新婚生活を送るのがなんと昭和42年の「西荻窪」。これには目が覚めました。これはササユリカフェにいって、話を聞かねばなりますまい。

刈谷仁美さんの かりや展は8月26日までやってます

舘野仁美さん

エレベーターで4Fへ。入口付近で舘野さんが迎えてくれました。ササユリカフェでは8月26日まで、今回の「なつぞら」オープニングの監督・刈谷仁美さんの展示「かりや展」をやってます。展示を見る前にアイスコーヒーを注文してまずは舘野さんとちょっとおしゃべり(ササユリカフェは今「臨戦態勢」なので、通常のカフェ業務は休止中、ドリンクメニューのみです)。

ふふふ、ここで描いてるんですよ。今は道具はしまってありますけどね。」……や、やはり。そして唐突な新居の舞台・西荻窪の登場については?「ふふふー、あれは、NHKのディレクターさんと週に1回ここで打ち合わせをしている中で、西荻窪っていいよね、というところから、なんとなく決まった設定なんです

なんとなくなので、「西荻窪的に面白いエピソードはあまり期待しないでくださいよ〜」とのことですが、いや、きっとなにかある!こけし屋ならぬだるま屋のケーキを食べたり、駅前の喜久屋ならぬ百合屋でお酒やおつまみを買ったりしてほしい!と、期待しています。

でもドラマも9月いっぱいで終わりのはずだから、舘野さんの仕事ももう終わったのでしょう?
「ふふふ、そんなことはないんです。まだまだ終わってないんですよー」

……さて、かりや展コーナーへ。オープニングムービーの原画コピーがどどーんと並んでいて、手にとってパラパラと見られるようになっています。

なつぞら タイトルバック原画

オープニングのタイトルバックは90秒。それにこれだけの数の絵が必要になるとは。そのボリュームに圧倒されます。ほんの数秒につめこまれた技術とひらめき。

小なつ

絵を見ただけでスピッツの歌が聞こえてくるでしょ。どこの場面かわかりますよね?

次からはちょっと連続で。

なつぞらタイトルバック原画
パラパラとめくっていると……
なつぞらタイトルバック原画
なつぞらタイトルバック原画
ぐっ
なつぞらタイトルバック原画
ぐぐぐっ
なつぞらタイトルバック原画
なつぞらタイトルバック原画
出た!
なつぞら タイトルバック原画
なつぞらタイトルバック原画
ぽーん!

タイトルバックの中でも特に印象的なところです。

会場で刈谷さんの短編作品『漫画から出てきちゃった話』を上映しています。漫画本から飛び出してきた人物が書店の漫画本棚をめぐり、ときに他の漫画に入り込んじゃうという奇想アイデアですごくおもしろい作品なのですが、絵が実体になるという点で、このタイトルバックとも共通しています。刈谷さんの表現の大切なモチーフなのでしょうね。

ほか、マボロシのタイトルバック(別案)の絵コンテや、ロゴデザインのスケッチなどなどにうっとり。頭の中のスピッツが鳴り止まないです。なつぞらだけでない刈谷さんの作品やスケッチブックも必見。

幻のタイトルバック
知らなかった世界♪

なつが住んだ昭和40年代の西荻窪

さて、ドラマのなつ(広瀬すず)は、西荻窪で新婚生活を送っています。ウッチャンのナレーションによると昭和42年つまり1967年。その頃に近い西荻の写真資料が手元にあるので、いくつか紹介します。

高架工事中の西荻窪駅

昭和39年西荻窪駅と添え書きがある写真です。駅名看板の上、まさに高架工事中なのです。なつが暮らしはじめたのは昭和42年で、西荻窪駅の高架化開業はWikipediaによると昭和44年ですから、駅周辺はそこかしこが工事中だったはず。

高架工事中の西荻窪駅

こちらは「昭和40年」とあります。まさに高架支柱を駅前に建てているところ。

作りかけの高架の下を鉄道が走っていた時代。

西荻窪駅前の踏切

マクドナルドの前あたりが駅前踏切になっていて、そこから駅のホームを見ています。跨線橋がシンボル。

西荻窪駅北口

駅北口にはフルーツパーラー(現 J:COMショップ)、パチンコ(現カラオケ館)、そして丸井(赤いカードのマルイです)。

高架ホームから富士山

できたてホヤホヤの高架から見える富士山。高い建物がありません。これ、まだ総武線のホームがないということなのかな。詳しい人に教えてもらいたい。

こうして見ると、高架工事中というのもあって余計にごちゃごちゃにぎにぎしていました。主人公なつのドラマに出てこない西荻生活、あれこれと想像してしまいます。

ドラマで出てくるなつの借家は、急な階段の下にあり、かなり特徴的な地形です。西荻であれに近い場所といえば、美濃山橋から井荻公園(通称どんぐり公園)、坂の上のけやき公園(トトロの樹)あたりまでにかけての、善福寺川右岸エリア。急坂や崖地がありとてもよく似ています。

私がドラマの中に入っていって(刈谷さんのモチーフ「絵から飛び出す」の逆です)なつにアドバイスするならば、「その家、大雨のときはちょっと注意したほうがいいよ」「家の裏の崖地の上では縄文土器が見つかるかもしれないから探してみて」です。

なつよ、エンジョイニシオギライフ!(内村光良さんの声で)

ササユリカフェは「天空庭園」

最後はササユリカフェから見たこの日の「 なつぞら 」。テラス席から見る空は西荻随一です。

なつぞら

西荻ガイド:ササユリカフェ(西荻案内所HP内)

関連HP・インタビュー記事など

アキバ総研
アニメ業界ウォッチング第31回:
アニメの原画に触れられる“ササユリカフェ”オーナー、舘野仁美さんの語る動画人生
https://akiba-souken.com/article/29630/?page=1

灯台もと暮らし
【西荻窪】元スタジオジブリのアニメーターがつくる、身体と心が休まるササユリカフェ
https://motokurashi.com/nishiogikubo-sasayuricafe/20160122

女性自身
元ジブリアニメーターの女性が『なつぞら』に抜擢された意味
https://jisin.jp/entertainment/interview/1764781/

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